耐震性能の向上で具体的な数字を示します
結論から言うと下のモデル※を使った例では、耐震性能は「一応倒壊しない」から「倒壊しない」に評価が変わり、数字的には 30%もの改善になります。耐震の目的で瓦屋根を軽量なガルバリウム鋼板に葺き替える意味はありそうです。※普通の木造家屋のあるモデルを使った耐震性能の計算例です。
屋根を葺き替えるときに巨大地震に対する効果はどのくらいあるのか?のお話です。
木造住宅の耐震性能/一般診断法/精密診断法
屋根が替わることでその家の耐震性がどうなるか?のお話です。日本では建設省の外郭団体、民間、大学関係の研究者が作った耐震性能の測定に耐震診断法があります。ビル、大型建設物は勿論のこと、一般木造住宅にも耐震診断があって、これがこのページのテーマです。木造家屋の耐震診断とは来るべき巨大地震、阪神淡路大震災、東日本大震災級の地震への備えで、耐震性能の評価です。
※2012年改定版「木造住宅の耐震診断と補強方法」:日本建築防災協会、国土交通大臣指定耐震改修支援センター著
この耐震診断には:
1:誰にでもできるわが家の耐震診断
2:一般診断法
3:精密診断法
があります。「誰にでもできるわが家の耐震診断」は「誰にでもできるわが家の耐震診断」で検索すれば簡単にその診断のサイトにリンクしますので、やってみてください。ここでの話はもっと突っ込んだことで、重い瓦の屋根から軽いジンカリウム鋼板やガルバリウム鋼板に葺き替えたら、もしくは葺き替えるとどのくらい巨大地震に強くなるのか?を考察します。一般診断法使って実際の評価の値がどう変わるかを調査しました。
瓦をガルバリウムにすると、どのくらい耐震性能が良くなるのか?
評点の計算:
建物の上部構造評点(評点) = 建物の保有耐力 / 必要耐力
でその評点の意味は;その家が倒壊するかどうかの評価の点数です。
・1.5 以上:倒壊しない
・1.0 ~ 1.5 :一応倒壊しない
・0.7 ~ 1.0 未満:倒壊の可能性あり
・0.7 未満:倒壊の可能性が高い
「必要耐力」とは、巨大地震がその建物を倒そうとする力;「必要」と言っているのは、その地震の力に対抗して倒れない等しい力という意味なのだと考えます。
「保有耐力」はその住宅が保有している倒れない力です。耐震性能とは、つまり巨大地震が家を倒そうとする力と家が倒れまいとする力が等しいとき、値は 1.0で、1.0以上は家の力の方が大きく倒れない、地震の力が大きい場合は値が、1.0未満でこの評価値が小さい程、倒壊する危険が増すということになります。
瓦を軽量金属屋根に替えたときに、この評価値がどうなるのかが耐震性能での要です。一般論だけでは良く分からないと思いますので、モデルを考え、耐震性能の評価の数字をいれていきます。どこにでもある一般的な木造住宅を考え耐震性能の条件を設定します。
サンプルの家屋:2階建て瓦屋根から金属屋根に替えたときの耐震評価の変化
仕様:
工法:在来軸組構法、総二階;1階床面積:37.26㎡、2階床面積:同37.26㎡、屋根:釉薬瓦(45Kg/㎡)、屋根全面積:70㎡、外壁は窯業系サイディング、準耐力壁仕様、内壁は石膏ボード張り、床:畳部屋一部、初めは瓦葺き、金属への変更。引っ掛け桟工法、土はなし、地域は関東、普通地盤、池、沼、埋め立て地ではない土壌地域、豪雪地帯ではない、平成12年建設省告示第1460号に適合する仕様
耐震の評点を計算するのに、具体的な数字で考えた方がわかり易いので、上のサンプルで考えます。耐震診断の2の「一般診断法」で必要耐力、保有耐力を計算します。そしてこの家の上部構造評点(評点)を瓦の場合とジンカリウム、ガルバリウム鋼板等金属での値を求めて、比較してみます。どのくらい変化があるのか?
瓦から軽量屋根にすると耐震性能の評点はどのくらい向上するか?
結果:上のモデル、条件での必要耐力、保有耐力、上部構造評点は;
必要耐力:瓦の場合:59.23 (kN)、金属屋根の場合:44.70 (kN)
保有耐力:68.86 (kN):この値は共通の値、屋根の重量は保有耐力に影響がありません。同じ保有耐力
よって、
瓦屋根の
評点 = 保有耐力/必要耐力= 68.86 / 59.23 = 1.162(一応倒壊しない)
金属等軽量な屋根の場合:
評点 = 保有耐力/必要耐力= 68.86 / 44.70 = 1.540(倒壊しない)
瓦から金属に屋根の材料を替えると、巨大地震の評点は、30%程良くなり、このモデルでは、「一応倒壊しない」から「倒壊しない」になりました。一般診断での計算は下記に示します。
一般診断法での必要耐力※
サンプルの家のように、在来軸組構法の家屋で基本的に総二階は、一般診断法のやり方で「必要耐力」(その家にかかる地震の力・家を倒壊させる力)を導きだすことができます。この方法によると、その家にかかる地震の力は当該住宅の重量に比例して、簡易的に次のように求めることができます。
瓦葺きの場合の「必要耐力」:
サンプルの家は総二階建て、桟瓦葺きなので、重い屋根の家に分類され、一階、二階部分の床面積単位にかかる力を求め、各階の床面積を掛けて家全体にかかる「倒そうとする力」を求めます。
※N:「N : ニュートン」の解説は一番下にあります
■瓦屋根の場合の必要耐力: 59.23 kN
0.53Z X 2階の床面積 + 1.06Z X 1階の床面積
Z:地域係数、関東地方では、1.0
0.53:桟瓦葺き、2階の計算係数
1.06:桟瓦葺き、1階の計算係数
1階の床面積:37.26㎡
2階の床面積:37.26㎡ 総二階により同じ床面積
で計算は;
0.53 X 1.0 X 37.26 + 1.06 X 1.0 X 37.26 = 19.74 + 39.49 = 59.23 (kN)
金属屋根の場合の「必要耐力」:
求める計算は瓦の場合と同様ですが、ジンカリウム鋼板、ガルバリウム鋼板の屋根のカテゴリは、「軽い屋根」になります。各計算パラメータから計算されます。
■金属屋根の場合の必要耐力: 44.70 kN
0.37Z X 2階の床面積 + 0.83Z X 1階の床面積
Z:地域係数、関東地方では、1.0
0.37:桟瓦葺き、2階の計算係数
0.83:桟瓦葺き、1階の計算係数
1階の床面積:37.26㎡
2階の床面積:37.26㎡ 総二階により同じ床面積
で計算は;
0.37 X 1.0 X 37.26 + 0.83 X 1.0 X 37.26 = 13.78 + 30.92 = 44.70 (kN)
※ 一般診断法、木造住宅の耐震診断と補強方法:2012年改訂版
P.26、3.4.1 必要耐力の項目参照
一般診断法での保有耐力の計算 ※
家が地震に対抗する力は主に家の壁(外壁、内壁の量)から求められるもので、今回のサンプルでは瓦からガルバリウム鋼板へ屋根を葺き替えただけなので、「対抗する力」は瓦の場合、ガルバリウム鋼板の場合とも同じ値です。その求め方は、壁の仕様から単位長あたりの対抗力を選び各長さを図面から割り出し、それを一階と二階の全壁の総和で算出します。 ※保有体力の計算
サンプルでは、外壁は窯業系サイディング、内壁は石膏ボード(9mm厚)と設定していますので、これに図面から各長さを割り出し、その総和を計算したものです。
■このサンプル家の対抗する力: 68.86 kN
※保有耐力の計算方法:
木造住宅の耐震診断と補強方法:2012年改訂版 P30、第三章 3.4.2
「必要耐力」「保有耐力」が求まりました。
地震の家を倒そうとする力、家の地震に対抗する力とは?
巨大地震によって、家にかかる力を必要耐力、家が巨大地震に耐える力を保有耐力と言いますが、地震の力が大きいと倒壊し、家が対抗できる力が大きいと倒壊しないという理屈です。その家の耐震性能は次の関係です。
- 地震の力 = 家の地震に対抗する力: 両方の力が同じ場合
- 地震の力 < 家の地震に対抗する力: 計算上は倒壊しない
- 地震の力 > 家の地震に対抗する力: 計算上は倒壊する
倒壊するかしないかは数字で表され;
評価点(耐震診断の評価)= 保有耐力 / 必要耐力
で結果の数字によってこの耐震性能の診断法では次の評点を与えています。 ※評価点
評点が;
- 1.5以上のとき:倒壊しない
- 1.0~1.5のとき:一応倒壊しない
- 0.7~1.0未満のとき:倒壊の可能性あり
- 0.7未満のとき:倒壊の可能性が高い
となります。
耐震性能の変化:瓦をガルバリウム鋼板へ葺き替えたとき
瓦葺きの場合の耐震性能と瓦を撤去してガルバリウムに葺き替えをした場合の耐震性能の評点を比較することで、この葺き替えによる耐震性能の変化、評価を考えます。
今まで見てきたように、家の地震に対抗する力は、壁、梁、土台などは変えないので、屋根を葺き替えても変わらない;52.69 kNです。しかし、地震のその家に対する力は家の重さに深く関係して、屋根を重い瓦から軽いガルバリウムに替えると地震の力も大きく変わります。
実は屋根を軽くすることは、家の耐震性能が直接向上するのではなく、軽くすることで地震の力を軽減することになって、耐震性能が向上するということなのです。
これに対する各場合の耐震性能を計算してみます。計算は「木造住宅の耐震診断と補強方法」一般診断法、方法1を用います。
重い瓦屋根の場合の地震力:59.23 kN
軽いガルバリウムの場合の地震力: 44.70 kN
ですから、保有耐力:52.96を使って、上部構造評点をだします。
瓦屋根の評点
= 68.86 kN / 59.23 kN = 1.162 (一応倒壊しない)
ガルバリウムの評点
=68.86 kN / 44.70 kN = 1.540(倒壊しない)
このサンプルの場合は「一応倒壊しない」から「倒壊しない」に評価が変わりました。
評価の向上と共に、数字的にも評点は 30% もの改善になっています。
耐震の目的で瓦屋根を軽量なガルバリウム鋼板に葺き替える意味はありそうです。
「木造住宅の耐震診断と補強方法」には何が書かれているのか?
「木造住宅の耐震診断と補強方法」には、日本の木造住宅における巨大地震に対する耐震強度の測定、計算の方法と、地震に耐えられる、評価点を上げる為の対策が、産学連携の粋として記載されている。評価点をあげる、地震に強くする家のリフォーム、改修には実は2通りのやり方があって、式をみれば明らかなように、地震に対する耐力、保有耐力を強化する方法と、もう一方は地震の力を軽減する方法つまり「必要耐力」を減少させる方法があります。
この本には、地震対策として、保有耐力に主眼が置かれ必要耐力の低減、具体的には屋根の重量を減らすことが書いてありません。壁の補強、梁の強化も重要と思いますが、上で書いたように非常に重量のある瓦を降ろして、軽いガルバリウム鋼板などの金属屋根にすれば、必要耐力がかなり減らせて耐震に貢献できると考えています。
屋根の耐震、家の耐震診断まとめ
瓦を撤去して、軽量なガルバリウム鋼板などに葺き替えば、耐震の向上にかなり寄与することが計算により明らかです。また、どれくらいの割合で耐震診断の評点が向上するのかも計算で求められて、考えたモデルでは30%程度の点数向上になりました。瓦をガルバリウム鋼板へ葺き替えると、耐震にかなり有利となります。
補足:
上のモデルでの検証は一つの例であって、正確にはきちんと耐震診断をしないと評価できないのです。見た目の判断は危険で「倒壊する危険が大きい」「する可能性がある」「倒壊しない」の判断は、単なる瓦屋根だから倒壊しやすい、ガルバリウム鋼板だから倒壊しないのではなく、保有耐力と必要耐力の値でその見当がつくもので、この耐震診断も絶対的なものではないことは理解して頂けると考えます。見た目だけ、都市伝説だけで業者の根拠もない次の誘導等に負けないでください。くれぐれも耐震については専門家の耐震診断を受けた上で考察してほしいです。口だけの決めつけは危険です。
- 重い瓦の住宅は倒壊し易い
- ガルバリウム鋼板などの軽い屋根は倒壊しない
- 古い家なので土壁しかないので、倒壊する
- 家の形が複雑で欠け、出っ張りがあって倒壊する
- スレートの屋根をガルバリウム鋼板でカバーした、重くなったので倒壊の危険あり
屋根修理業者、特に訪問会社は、良くこれらのことを言って営業をしています。人の良さそうな、いかにも親切そうな営業に言われたら「そうかな?」と思ってしまうこともあるかもしれませんが、わざわざ人の家を本気で心配して言ってくれることはないです。言われて心配になったら「耐震診断」をお金はかかりますが受けてください。その上で葺き替えた方が良いのか?しなくてもかわらないのか?を判断してください。
重い瓦の家でも耐震のしっかりした家は沢山あります。古い家でも倒壊しない家も沢山あります。見た目危ないと思われる「おうち」に悪徳業者は心配を「装い」訪ねてきます。こと耐震については正式な業者にきちんと耐震診断をしてもらってください。話はそれからです。
N(ニュートン)とKg、重量と質量の違い
KgとN(ニュートン)の換算式は、1Kg = 9.8N
ではKgとニュートンの違いは、Kgで表されたものは、質量でこれは地球でも、月でも、火星でも変わらぬ重さですが、Nは測定した場所で変わります。つまり重力の大きさによって変わる重さになります。また地球でも赤道付近と北極、南極とではわずかですが、違います。
参照した書籍、論文、サイトの情報
■耐震診断、必要耐力、保有耐力の計算に関して参照した書籍、ページ、図など
・木造住宅の耐震診断と補強方法:2012年改訂版、発行:日本建築防災協会、国土交通大臣指定耐震改修支援センター、著作者:「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」改定委員会(2004年改訂版)、委員長:坂本 功
※必要体力:木造住宅の耐震診断と補強方法:2012年改訂版 P26、第三章 3.4.1:必要耐力
※保有耐力の計算:木造住宅の耐震診断と補強方法:2012年改訂版 P30、第三章 3.4.2:保有する耐力
このページは以上になります。