スレート、コロニアル

スレートのカバー工法は耐震に不利なのか?

ガルバリウム鋼板のカバー工法は屋根が重くなって耐震に不利なのか?

屋根の耐震タイトル

質問:
スレート屋根の葺き替えを考えています。屋根面積は約70㎡、ガルバリウム鋼板の新しい製品での工事希望だったのですが、近所の屋根屋さんはガルバリウム鋼板を加えると350Kgにもなるので、耐震に不利、スレート材は撤去したほうが安心です。カバー工法はお薦めできないと言われてしまいました。またインターネット上のサイトにもカバー工法は屋根が重くなって地震に弱くなるのでやめるべきとの記述を見ました。やはりカバー工法は良くないのですか?ご意見をください。宜しくお願いします。

回答:

結論を先に言うと、ガルバリウム鋼板のカバー工法は、耐震診断において、全くと言っていいほど問題ありません。単なる増加分の重量350Kg重さが増加することだけで、耐震うんぬんするのは意味がありません。家全体の重量がどれくらいで、ガルバリウム鋼板を追加したときにどれだけ増加しているかを議論しないと、変な話になってしまって、「カバー工法は危険」だということに誘導されてしまいます

屋根が1Kgでも重くなったら、地震には不利です。でも1Kgがどのくらい不利になるのかを言わないと、耐震の評価、耐震診断の計算値を言わなければ本当のところは解明されません。ガルバリウム鋼板のメーカーもスレート材のメーカーも薦めているカバー工法ですので、かなり一般的なこの工法を屋根が重くなるの一言で否定して良いのか?正しく回答しました。また追加の調査、計算もやりました。

このお客様には、大丈夫ということをお伝えし、モデルの計算をして後日追加で補足しました。

ガルバリウム鋼板だけの重量を言っても意味がない!

屋根にガルバリウム鋼板を追加する葺き替えをしたら、確かに350Kgの重量が追加されます。ガルバリウム鋼板は㎡あたり5Kg、70㎡で350Kgの増加です。しかし、耐震の力は家全体で議論しなければなりません。何故なら巨大地震の力は家の重量全体にかかり、その「家」の重量に比例すると考えられるからです。家の重量に対してどのくらいの増減があるのか?を考えなと、その営業マンに騙されます。

疑問は、「ガルバリウム鋼板のカバー工法は耐震に対してどのくらい悪化するのか?」です。悪化するのは当然ですが、では、1%悪化するのか?2%?10%?誰も具体的な数字を言えていません。

具体的な数字を言えないことを、鵜呑みに信じてはいけないです。では、屋根70㎡の2階建てのモデルを考え、これを解説します。

モデルの住宅:

耐震住宅サンプル

仕様:

1階床面積:31.1㎡、2階床面積:22.7㎡、屋根:コロニアル、スレート、屋根全面積:70㎡、在来工法、外壁は鉄網モルタル、吹付け塗装壁、内壁は石膏ボード張り、床:畳部屋一部、その他は板(フローリング仕上げ)、天井:化粧合板仕上げ、の条件で家全体の重量を求めます。計算の表は次のようです。

家の重量計算表

家の重量の単位は N です。(1Kg=9.8N国際単位)NとKgの解説は下に解説

条件でのこの家の総重量は、約16,559N、約16.9トンです。

これに、ガルバリウム鋼板、1㎡あたり 5Kg、70㎡では350Kgの重量が加わります。このときの家の総重量は;同じように表にすると;

ガルバを加えた表

ガルバリウム鋼板をスレートの上に施工した所謂、カバー工法での家の総重量は、約169,059N、約17.3トンです。この重量が増加した分を家全体に対してどのくらいの増量なのか?を「N」単位の方で計算すると、

ガルバリウム鋼板を乗せる前:165,559N

ガルバリウム鋼板をカバーした重量;169,059N

その増加率は、169,059N /165,559N = 1.0211 で、2.1%の増加です。

350Kgの重量増加と聞くと「え!」そんなに重いものを屋根に加えれば耐震に大きな影響があるのではないか?と思います。しかし、家全体の重量が、165,000N(約16トン)もの重さに比べれば僅かに2.1%の重量増加に過ぎないのです。350Kgという重さに惑わされてはいけません。確かに屋根の重量、家の重量が重くなれば巨大地震に対して不利にはなります。決して良くはなりません。しかし、耐震診断の考え方は家全体として考えなければならないので、16トンの家に対してどうなのか?が重要なのです。

実際の耐震診断でのその家が巨大地震に対して倒壊する危険があるのか?大丈夫なのか?の計算では、スレート屋根にガルバリウム鋼板を加えても計算上は、同じ評価になると思います。もちろん影響はゼロではないですが、無視できるほど軽微なのです。では耐震診断の面から考察してみます。

産学が建築の技術の粋を集めて作成した木造家屋の耐震診断法:

耐震に対しては、耐震診断というものが、国土交通省の監修と言って良いと思いますが、国絡みで耐震について研究がなされ、その指標となる本が出されています。「木造住宅の耐震診断と補強方法」というかなり分厚い本になります。全国の耐震に関係する仕事をする業者は皆この本を元に業務を遂行しています。耐震診断、耐震のバイブル的な本です。

この本には大半が診断の詳細な方法、補強の方法について書いてあります。ここでは「診断値」についてとガルバリウム鋼板で屋根が重くなったらその診断値はどのくらい悪化するのか?に着目して見ていきます。まず評価値(診断値)ですがつぎのようです。

耐震の診断値、評価基準値:

  • 1.5以上:倒壊しない
  • 1.0~1.5一応倒壊しない
  • 0.7~1.0未満:倒壊の可能性あり
  • 0.7未満:倒壊の可能性が高い

「木造住宅の耐震診断」では、その家の耐震の評価としてこの値を使っています。この評価値の計算は次式によって(解説は下にあります)計算されます。

建物の耐震評価点 = 建物の保有する耐力 / 必要耐力(地震の力)

建物の保有する耐力とは想定した大地震に対抗して倒壊しない云わば家の力です。それに対してその家に働く地震の力が必要耐力です。耐震は力学の「力」で評価します。

で地震の建物を揺らす、または家に働く力に対抗してそれ以上の「倒れまい」とする力を建物が持っていれば、倒壊しないという理屈です。倒れまいとする力は家の柱や壁の強度、梁、構造ずべての対抗する力の総合計になっています。ですから細かい計算が沢山あります。

そして家を倒壊させる力は建物の重さに比例すると言います。これで家全体の重さが重いほど倒れやすいとい結果がでてきます。家が重いほうが地震の力が大きく働くのです。重ければそれだけ家の構造体を強くしないと倒壊してしまいます。その基準が上の診断値、評価基準です。

評価点が「1」の場合は、建物の保有する耐力=必要耐力で両方の力が同じです。理論上では倒壊しなません。絶対に倒壊しないのか?絶対ではありません。では0.7未満の場合は倒壊するのか?そうではありません。この評価は絶対ということはないのです。倒壊しないように数値が悪ければ補修をこのようにしてくださいという指針をアドバイスするものなのです。

では元に戻って、スレート屋根にガルバリウム鋼板を乗せるとどのくらい数値が悪化するのか?ここが知りたいことです。

スレート屋根の場合の必要耐力計算(一般診断法)

一般診断法では、建物の構造を3つに分けて計算します。

  • 軽い建物:スレート屋根、モルタル外壁、(石膏)ボード内壁で作られた家屋
  • 重い建物:桟瓦葺き、土塗壁、(石膏)ボード内壁で作られた家屋
  • 非常に重い建物:土葺瓦(瓦を土で固定した屋根)、外壁、内壁とも土塗壁

モデルの家屋は、スレート葺きで外壁はモルタル、内壁は石膏ボードですので、軽い建物になります。この条件と2階建てで各階の床面積から、必要耐力を求められます。

巨大地震のこの家に働く力(必要耐力)は、「木造住宅の耐震診断と補強方法」のP.26の一般診断法の必要耐力計算を使うと、2階建ての家では、床面積から計算できて、床面積に係数を掛ける計算です。

2階の必要耐力 (KN): 0.37 (KN/㎡)  X  床面積(㎡) = 0.37 X 22.75 = 8.41 KN

1階の必要耐力 (KN): 0.83 (KN/㎡)  X  床面積(㎡) = 0.83 X 37.30 = 30.95 KN

必要耐力の合計 = 39.36KN

ガルバリウム鋼板が追加された場合の必要耐力計算

一般診断法では、建物の構造分類が3設定しかなく、スレート材にガルバリウム鋼板を加えた分類がありません。必要耐力の計算に用いる各係数は、建物全体が重くなると係数が増加するので、上記建物全体の計算に従って、この係数を建物全体の重量増加の割合、2.1%増加させて計算すると;

2階の必要耐力 (KN): 0.377 (KN/㎡)  X  床面積(㎡) = 0.377 X 22.75 = 8.57 KN

1階の必要耐力 (KN): 0.847 (KN/㎡)  X  床面積(㎡) = 0.847 X 37.30 = 31.59 KN

必要耐力の合計 = 40.16N

当然、必要耐力は2%程度増加します。必要耐力とは、巨大地震が家屋を揺らす力、倒壊させようとする力です。これが、ガルバリウム鋼板を乗せると、2%程度その力が増加すると言っています。

では、これが耐震診断の評価値に与える影響はどれほどか?

一方この巨大地震に対抗する力、保有耐力はこの木造家屋の壁量、梁、筋交い、耐力壁などで計算されて、それらは変化なしですから、この値は仮定します。分かり安いように、保有耐力=50KNで計算します。新築でそれなりに耐震構造を仮定しますので、保有耐力は必要耐力より大きい数字の設定です。しかし、この値は変化しませんので、ここではそれほど重要な値ではありません。必要耐力の変化によって、耐震診断の評価値がどれだけ変わるのか?が主眼です。これで評価点を計算します。

建物の耐震評価点 = 建物の保有する耐力 / 必要耐力(地震の力)

ですので;

スレート屋根の場合の評価点=50KN / 39.36KN = 1.27

ガルバリウム鋼板が加わった評価点 = 50KN / 40.16N = 1.24

スレート屋根の評価点は、1.27で判定は「一応倒壊しない」です。ガルバリウム鋼板をカバー工法で施工した場合の評価点は、1.24に低下しましたが、判定は同じ「一応倒壊しない」になっています。ほんの僅かの低下ですが、判定にさほど変化はないのが分かると思います。また仮定した保有耐力が倒壊するかしないかのぎりぎり「1」付近であっても評価点の変化は同様です。

結論:カバー工法での重量増加は、耐震診断に与える影響は限定的

このように、スレート屋根のガルバリウム鋼板によるカバー工法では、耐震に関する影響は、そんなに大きくないことが理解できたと思います。ただ、ガルバリウム鋼板の施工された重量(ここでは70㎡、350Kg)の大きさだけをもって耐震うんぬんは、危険です。

生活の中での350Kgは確かに非常に重い重量ですが、16トンの家にとっては350Kgは、数%の重量変化に過ぎないのです。屋根の重量が重くなれば耐震に不利なのは理解できます。しかし、どれくらい悪化するのか?その具体的な数字を言わないで、カバー工法は耐震にとってやってはいけないというのは少し言い過ぎと言えます。

Link001:NとKgの解説

N(ニュートン)とKg、重量と質量の違い

KgとN(ニュートン)の換算式は、1Kg = 9.8N

ではKgとニュートンの違いは、Kgで表されたものは、質量でこれは地球でも、月でも、火星でも変わらぬ重さですが、Nは測定した場所で変わります。つまり重力の大きさによって変わる重さになります。また地球でも赤道付近と北極、南極とではわずかですが、違います。

このページは以上になります。

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